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次世代住宅のプロが説く 『人生100年時代』のZEH提案術

2019/11/1 18:00

次世代住宅のプロが説く 『人生100年時代』のZEH提案術

2019/11/1 18:00

 人生最大の買い物。施主にとって最善の選択か否かは事業者の手に委ねられている。何故なら、殆どの人はそれが最初で最後だからだ。では、“ゼッチ”を提案する意味とは何か。それは経済性、健康・快適、レジリエンス力だけではない。超高齢化社会に突入した現代に於いては「より良く生きる為に」という新たな価値が生まれつつある。大手ハウスメーカーに長年勤め、現在はスマートハウスを中心とした“次世代住宅提案術”を指南する有力宣教師の一人。 L.R.コンサルティングの吉川社長に訊いてみた。

住宅購入のメリットは?

 金融庁から公開された報告書『高齢社会における資産形成・管理』(金融審議会 市場WG:2019年6月)が指摘した「老後資金2,000万円不足」というテーマが注目を集めたのは記憶に新しいかと思います。このネガティブな印象から「資金が不足するのに住宅を購入しても大丈夫なのか?」という相談をよく受けます。しかし、それは寧ろ逆で、今こそ住宅は「買い」なのです。このレポートにおいて注目すべき前提条件は「住居費」が月平均約1.3万円となっている点です。概ね固定資産税のみといったところでしょう。ところが、この数字は「持ち家層」も「賃貸層」も含めた平均値なのです。では、これが「賃貸」であり家賃を月7万円支払っている場合、どのような試算になるでしょうか。退職後30年間の生活を仮定すると家賃だけで約2,500万円〔≒月7万円× 12ヶ月×30年〕必要になり「老後資金は4,000万円以上も不足」ということになります。つまり『人生100年時代』と言われる現代社会において「住宅を持たない」という選択は将来的に厳しい生活を強いられる可能性を秘めているということです。もちろん、単純計算であり、全ての人が同様の資金が必要になるとは限りません。しかしながら、購入できるのであれば家を建てた方が合理的と言えます。

「持ち家」が最善な選択と。

 その通りです。では、どのような住宅を選ぶべきなのか。それが間違いなくZEHやLCCMといった高性能住宅であり、少なくとも60年超の耐久性があるものです。退職後に数十年は生活していく「終の棲家」がローン完済直後の30年程度で朽ちてしまっては意味がありません。「太陽光発電や蓄電システム・V2Hを搭載している」「断熱性能に優れている」「耐震性が高い」など現時点で考えられる最高レベルの要素を設計に組み込むべきです。

初期投資が増加します。

 確かに一般住宅に比べZEHは高断熱化や太陽光発電の搭載等により300~400万円程度の追加費用が必要となります。では、家計支出はどうでしょうか。単純に毎月返済額だけみると一般住宅の方に軍配が上がります。これだけを提案されると多くの人は「普通の家」を選択するでしょう。しかし、ZEHは売電収入と省エネによる光熱費の削減効果があるため毎月家計収支で見ると最大約1.5万円のプラスが出ることになります。余剰買取期間が満了となる10年後に関しては現在、大手電力会社や新電力系から様々なプランが打ち出されていることから「売電収入+ 光熱費削減」が継続的に見込め、11年目以降も「お得」であることに変わりはありません。20年間の家計支出を一般住宅と比較すると200万円近くも開きが出てくることになります。また、近年、太陽光発電の『初期費用ゼロ円』モデルが登場しています。こちらに関しては当初10年間の売電収入はありませんが、それでも約7千円のプラスとなります。11年目以降はというと、太陽光発電が譲渡されるため売電収入分による経済性が向上します。また初期費用が抑えられるということは「ローン審査をクリアできる」「他の設備に資金を回す」「子どもの教育資金として貯金」など施主にとっての選択肢も増えることになります。「顧客の予算が足りない=ZEHが提案できない」という結論になるのは短絡的と言えます。施主の将来を左右する重要な判断機会です。事業者がZEH以上を提案することは、このご時世、当然あるべき姿だと言えるでしょう。老後資金や経済性という観点は一例に過ぎません。高性能住宅には多くのメリットがあります。我々も施主や事業者向けのセミナー・勉強会を通し普及に貢献していきたいと思っています。

なるほど。次世代住宅の提案は“当たり前”ということですね。ありがとうございました。

※本記事は月刊スマートハウス別冊 『ZEH MASTER 2019』 に掲載したものより抜粋しています。