「過半数目標」が掲げられた2020年まで残すところ僅か。ZEHはこの先、どうなっていくのか。黎明期から市場形成を構想し、政策展開を担ってきたZEHロードマップフォローアップ委員会委員長の秋元孝之 芝浦工業大学教授に今後の方向性について訊いてみた。
これまでの政策展開は、どのように推移してきたのでしょうか?
ZEH(通称:ゼッチ)は経済産業省WGであるZEHロードマップ検討委員会で議論され2015年12月に公表された報告書で具体化・定義されました。しかしながら、実際には12年度から実施されてきた実証事業等を積み重ね、14年に閣議決定された『エネルギー基本計画』の中で「住宅については、2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現を目指す」と方向づけられました。これらの結果を踏まえロードマップは纏められています。この意味で10年近く住宅のゼロ・エネルギー政策が動いていることになります。近年では経済産業省だけでなく国土交通省、環境省の3省が一体となり施策を展開するなど、これまでにない体制が構築されています。
普及・推進の背景にあるのは、気候変動対策、地球温暖化防止、脱炭素化に向けた世界的な流れにあります。感覚的な表現では未来の子供たちへの、現代人ができるプレゼントと言えるでしょう。国レベルでは、東日本大震災において経験した電力需給の逼迫や国際情勢の変化によるエネルギー価格の不安定化等を受けエネルギー・セキュリティを高め、住宅の自給・自立の必要性が認識されるようになってきたことなどが関係しています。昨今は地震だけでなくゲリラ豪雨、大型台風といった自然災害対策から防災・減災という観点からもZEHが注目を集めていると思います。シリーズとして新たに追加された『ZEH+R(ゼッチ・プラス・アール)』が、その最たる例です。住宅事業者の中にはZEHをベースとし、太陽光とV2HやEV含む蓄電機能で停電対策を、給湯機や貯水システムで断水・飲料水の確保といった災害対応住宅を展開されている事例もみられます。環境に優しいだけでなく、経済性が高く、健康・快適、万が一にも安心というZEHの価値が広がりをみせています。
ただ、市場の拡大・成長は緩やかにみえます。
今年で4年目となるZEHビルダー/プランナーの登録数は年々増加し7,300件超にまで拡大しました。地域分布についても需要地に応じて全国を網羅し、新築注文戸建住宅に対するカバー率も7割を超えてきています。大手・中堅ハウスメーカーだけでなく地域ビルダー・工務店など様々なプレイヤーが参画していることは心強いと思います。一方で、年間の供給規模は5万件程度。数値としてはまだまだかもしれません。「実績の有無」や「目標達成度」を分析すると事業者間で「できる・できない」の二極化も進んできました。ただ、年間の伸び率は補助事業の交付決定に関わらず2割を超えており、徐々にですが着実に市場は拡大してきているとも言えます。
「普及の壁」については、どのような解決方法がありますか?
経済産業省が行った事業者アンケートによると「顧客の予算制約」という問題が目標未達成の上位要因として挙げられていました。この点に関して太陽光発電業界から「初期費用ゼロ円設置モデル」が打ち出されています。費用負担の軽減やメリット訴求の向上が期待されます。その他、関連業界の叡智を集めれば課題解決は十分可能であると考えています。ZEHロードマップフォローアップ委員会では引き続き課題を洗い出し普及拡大に資する議論を行っていきます。多雪地域での水準緩和(普及推進)や健康・快適、レジリエンス性の訴求(価値拡大)、自家消費分野への展開(方向性)、スマートシティといった地域の中での住宅の在り方についても検討し始めています。「ゼッチ」というキーワードを中心に住宅業界だけでなく電材・建材・管材・家電、AI/IoTなど分野横断的な連携・取組が加速しています。業界の拡大はより良い世界の構築につながっていくと思います。また住まいの進化に終わりはありません。産官学民が一丸となって、少し先の未来を見据え、議論していきたいと思います。
ありがとうございました。
※本記事は月刊スマートハウス別冊 『ZEH MASTER 2019』 に掲載したものより抜粋しています。
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2024/7/10 0:00
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