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新型コロナウイルス感染症の最新見解 『正しい換気が コロナを撃退⁉ 』

2020/5/17 15:00

新型コロナウイルス感染症の最新見解 『正しい換気が コロナを撃退⁉ 』

2020/5/17 15:00

 未だ新型コロナウイルス感染症対策の換気に関する公式見解が完全となっていない状態が続いているなかで、空調・換気メーカーは政府の発表に則った対策や注意喚起をせざるを得ない状況だ。では、果たして前頁で紹介した厚生労働省が提唱する換気の励行は有効なのか。3月23日に日本建築学会と共同で「換気」に関して緊急会長談話を公表した空気調和・衛生工学会の会長も務める早稲田大学の田辺新一教授に訊いた。

 まず、新型コロナウイルスをはじめ数々のウイルスがどのような経路で感染するのかについて、感染者と健康者がいた場合、感染経路には「飛沫感染」「空気感染」「接触感染」の3つとされている。飛沫感染は、感染者の咳やくしゃみ、会話時に飛ぶしぶきが健康者の目・鼻・口などの粘膜へ直接曝露することより感染するもの。その粒径は約5㎛~数㎜と様々で、100㎛以上の飛沫は自然落下する。その飛沫が到達する距離は1~2mとされていることから、政府は人の密度を下げるために対人間隔を取ることを喚起している。続いて空気感染は、蒸発した飛沫が乾燥し「飛沫核」となって空気中を漂い、健康者が呼吸をすることで感染するもの。結核や麻疹などは空気感染するが、新型コロナウイルス感染に対しての明確なエビデンスは無いという。次いで接触感染は、蒸発せずに付着した飛沫を健康者が触れ、目・鼻・口などを触ることで粘膜感染を起こすもの。

 ここで気になるのは、我々の日常生活においてどのような行動が様々な感染症のリスクを低減するかだが、田辺教授は「アルコールによる飛沫の除去、手洗い・うがい、マスクの着用が有効。少しでも飛沫・接触感染のリスクヘッジすることに加え、正しい換気を行うことが大事」と述べた。しかし、残念ながら「窓を開けることや換気システムを稼働させることは空気感染以外には無力」とも指摘した。ではなぜ政府をはじめ空調・換気に従ずる事業者や有識者が換気の重要性を提唱するのか、それは飛沫核に至る前状態、所謂「マイクロ飛沫」にあるとされている。マイクロ飛沫とは小さな飛沫や一瞬で蒸発した非常に小さな濃度の濃い粒子を指し、研究者はマイクロ飛沫によっても新型コロナウイルスに感染する可能性を指摘している。この粒子は20㎛以下のサイズで空中を漂っており、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)などでは「限定空間内で3時間は浮遊する」としている。その他環境別での生存時間は上表の通り。このため、新型コロナウイルスは飛沫核による空気感染の可能性が証明されていないことからも「外気中に長時間漂っているとは考えにくい」としている。マイクロ飛沫が漂うであろう室内空気の浄化を念頭に置くと、換気は重要なファクターとなるわけだ。

正しい換気がリスク軽減への一歩

 政府が発表した資料『新型コロナウイルス感染症対策の見解』では「窓のある環境では、可能であれば2方向の窓を同時に開け、換気を励行します。ただ、どの程度の換気が十分であるかの確立したエビデンスはまだ十分にありません」としていることからも、ただ単に窓を開放すればいいというわけではないようだ。そもそも自然換気が効果的な力を発揮するには、十分な風速が必要になるのはもちろんのこと室内外の温度差によっても左右される。空気の移動は温度差・気圧差のある所に起きるため、風がなく温度差が少ない場合は空気を上手く取り込むことができないのである。また、窓を1か所しか開けなかった場合も空気の流れが起こりづらく、充分に新鮮な空気が行きわたらないことにもつながる。窓がない部屋などの空気を入れ替える際には換気扇のスイッチを必ず入れることなどが求められている。オフィスビルなどでは窓が開かない建物もあるが、それを「機械換気」で補っている。一般的なものだと2回/h程度の換気が可能だが、省エネ等の関係上、運転を制限されている場合も多く、政府では制限しないよう励行している。昨今の住宅には第一種、または第三種の機械換気システムが導入されているが「厳密にどちらが良いというわけでもない。正しい換気方法さえ維持できていれば問題はない。換気回数においても建築基準法で定められている0.5回/hの確保は必要である」という。このことから、適宜な自然換気と併用すれば、現状の対策として効力を持つことが窺える。

 一方で、エアコンや空気清浄機では良質な空気質を維持できるのでは、と考えている人もいるようだが、エアコンは室内の空気を取り込んでから冷暖して部屋の中に戻すため、新鮮な空気を取り込むわけではない。市販の空気清浄機においては「部屋の大きさと比較すると小さく、換気の変わりになるという考えは推奨できない。非常に人が近く、密度のある場所で稼働させる分には多少効果がある」と語った。

 これまで、良質な空気質を維持するため、正しい換気方法について説明してきたが1つだけ例外がある。それは宅内に感染者がいた場合だ。このケースにおいては宅内の空気が行きわたる換気方法はむしろ逆効果となる。「家族のなかで感染者が出た場合は、厚労省が示しているように部屋からは出ず、対面の食事や会話、共有物の使用を控え、衣類など接触するものを一緒にしないことが重要」と警鐘を鳴らしている。「ワクチンや特効薬が完成するまでは、こうした厳戒態勢は長く続くと思われる。各個の対策意識で乗り越えていくしかないと言えるだろう」と見解を示した。(4月21日時点)

※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.64に掲載したものより抜粋しています。