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開発進むペロブスカイト太陽電池:高効率、超薄膜、コスト安を実現した 次世代パネルの現況

開発進むペロブスカイト太陽電池:高効率、超薄膜、コスト安を実現した 次世代パネルの現況

 ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、2019年に25%を超える変換効率が報告され、世界的に注目を集めている。これは、約10年前に桐蔭横浜大学の宮坂力教授が発表したペロブスカイト増感太陽電池を原型とするもので、2012年に全固体型が発表されてから研究開発に火が付いた。日本ではパナソニック、東芝、積水化学工業、アイシン精機といった大手民間企業の他、東京大学や産総研など各種研究機関が着手している。最近では20年1月に発表された、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトでパナソニックが開発した30cm角のPSCが世界最高のモジュール変換効率16.09%に達成したニュースも記憶に新しい。実用化に向け数々の試作品が発表されるPSCの実態と現況について、NEDOプロジェクトの研究代表者である東京大学の瀬川浩司教授に訊いた。

薄くて曲げられ、様々な場所に利用可能

 ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、ペロブスカイトという結晶構造を持つ特定物質(有機金属ハライド)を電極基盤に印刷・塗布することで製造可能な太陽電池。薄くて曲げられ、様々な場所に利用できる、安価かつ高効率な次世代の太陽電池として世界中で研究が進められている。太陽電池の分類としては“有機系太陽電池”に属する“有機薄膜太陽電池”と“色素増感太陽電池”のハイブリッドという位置付けとなっている。構造的には色素増感太陽電池と酷似しているPSCは①透明導電ガラス(電極基盤)②電子輸送層③発電層④正孔輸送層⑤金属電極という構造をもつ。
 PSCの特長は先述の通り、高効率、超薄膜、低コストが挙げられるが、高い変換効率を発揮する理由は③の発電層に有機金属ハライドペロブスカイトを用いていることにある。「有機金属ハライドペロブスカイトは、有機物と無機物の混合結晶で、その直接遷移により光吸収効率が高い。また、光吸収でできた励起子は直に電子とホールに解離し、そのどちらもが高い移動度を持っており、極めて効率良く電荷分離できる。光電変換材料としては理想的な性能だ」(瀬川教授)という。従来のシリコン系太陽電池と比べても「既存のシリコン系太陽電池では単セルで0.7V程度しか電圧が出ないが、PSCでは約1.2Vと高い電圧が出せるのも特徴。シリコン系太陽電池の変換効率が20%から25%に到達するのに30年以上の研究開発が行われたが、PSCの変換効率が20%から25%に到達するのに僅か5年しか要しなかった。PSCがシリコン系太陽電池の変換効率を超えるのも時間の問題だろう」と優位性を述べた。

鍵を握る製造方法

 薄膜化の鍵を握るのはその製造方法にあり、PSCは印刷や塗布といった手段で太陽電池の製造が可能となる。東芝や積水化学工業で研究開発されているものだと、フィルム基盤を用いているため、柔軟性の高いフレキシブルな太陽電池となっている。PSCの厚みは500nm程で、従来の結晶シリコン系の太陽電池と比べ1/100以下の厚みである。「シリコン系太陽電池の従来の製法であれば0.1mm程の厚みにスライスしたシリコン結晶に不純物をドーピングしたり、テクスチャーや電極などを形成する必要がある。工程も多く、高度な技術が必要なため製造コストが高くなるのが現状だ」と説明した。
 価格面においては、現状のシリコン系太陽電池の生産コストは100円/Wほどだが、NEDOプロジェクトのPSCの目標は「モジュール製造コストは15円/Wかつ、モジュール変換効率20%を実現するもの」となっている。将来的には1/5以上ものコストダウンになる計算だ。使用用途としては、一番はメガソーラー、続いてビルや住宅の壁面、工場の屋根、電気自動車、IoTデバイス向けのエネルギーハーベストなどでの実装が目指されている。「ペロブスカイトは鉛やヨウ素を使った化合物。自動車用の鉛バッテリーの鉛使用量は8kg程度であるが、同量でPSCを製造した場合、1ヘクタール分の製造が可能となるため大面積化が容易。また、日本は世界第2位のヨウ素産出国で、世界シェアが約3割あるため、資源調達面においても有利」と語った。

耐久性の向上などの課題残すも実用化は目前

 良いこと尽くめなPSCではあるが、課題点もある。「1つは更なる性能向上。もう1つは耐久性の向上」と指摘した。特に耐久性においては、フレキシブルな太陽電池を実現するためにポリマーフィルムを用いているが、材質上、酸素や水分のシャットアウトが難しいのだという。また、屋外だと砂嵐や雹といった環境影響を受けることもあるため「物理的な耐久性を考えるなら薄膜ガラスも選択肢の一つ。また、ガラスであれば燃えることはないため、万が一の炎上対策にもなると考えている」と解決策を述べた。
 これらの課題をクリアすれば「市販品として提供することが出来るため、2020年の半ばにはPSCの市販品が世に出ると思われる」と語った。現行プロジェクトでは、試作品を用いた環境試験の段階で、住宅の壁面に貼り付けた発電特性の経時変化の測定、工場の屋根に載せたときの耐久性などの基礎実験を行っている。
 世界中でこうした太陽電池の研究開発が進む中で、ペロブスカイトとシリコン系の太陽電池をタンデムにする(重ねる)太陽電池構造が注目を浴びているという。下地にシリコン系の太陽電池を置き、その上にPSCを載せるイメージだ。これは理論上でモジュール変換効率30%超の性能を発揮する構造となっている。
 PSCは、吸収波長域が短いもの(例えば400~800nm)でも電圧が高いため20%以上のモジュール変換効率が期待できる。一方、結晶シリコン系太陽電池は可視光から近赤外線まで幅広く光を吸収し、20%程度のモジュール変換効率を発揮するものが一般的だ。太陽光の半分はトップセルであるPSCで吸収し20%分を電気に変える。ボトムセルであるシリコン系太陽電池には半分の光しか届かないことになるが、PSCが吸収し損ねた長波長域の光を10%以上電気変換するため、トップセルと足してモジュール変換効率が30%を超える太陽電池となるという計算だ。これを活用した場合「10㎡の設置面積でも3kW分の搭載容量を持つことができるため、これを年平均で1日あたりの発電時間を3時間と仮定した場合、家一棟の電力を賄えるレベル、9kWh/日の発電量になる。開発段階にあるPSCでもタンデム型にした場合、28%程度のセル変換効率に達している。協力してもらえるメーカーがいればすぐにでも実現可能な域まで到達している」と自信を覗かせていた。

※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.63に掲載したものより抜粋しています。