脱炭素化に向け普及が叫ばれるZEH、建築物省エネ法の改正、HEAT20といった有志団体による水準引き上げの掛け声に伴い、住宅の高断熱化が加速。居住者の健康・快適性の向上が進む。一方でZEHビルダーが目指すべき次なる方向性、差別化要素とは一体何か。学界の大御所、日本建築センター顧問・理事の坂本雄三東京大学名誉教授、宮崎を代表する住宅事業者アイ・ホーム田村寛治社長、新換気空調『YUCACOシステム』と『マッハシステム』を展開するFHアライアンス廣石和朗会長が語り尽くす。
― まず、はじめに住宅市場はどのように変化してきていると分析されていますか?
坂本教授 新設着工数はリーマンショックの頃から比較すると大幅に減少し、アベノミクスと言われる状況であっても横ばいまたは逓減傾向が続いている。戸建木造は年間約40万戸といった水準である。リフォーム市場も盛り上がりに欠ける。というような、一般的な市況観はご承知の通り。この中で日本政府の政策として、温室効果ガス削減、脱炭素化を図る、さらには居住者の健康増進を同時に実現するため高断熱・省エネ化が進められている。その最たるものがZEHであり年間5万棟以上と伸長してきた。他国に比べても類を見ない状況ではないだろうか。以前は高価で投資回収が難しかった太陽光発電システムや各種建材も安価になってきている。時代の流れも相まって、高断熱とゼロエネルギーを伴った建築様式は自然な流れで進むような環境が整えられつつある。これからどのように発展していくか、非常に興味深く、注視している。
―住宅事業者のお立ち場からは如何でしょう?
田村社長 坂本先生がおっしゃられるように高断熱・省エネ化というのはもはや必須であり、関心をもたれているお施主様も多い。こうした環境下、当社では次世代省エネ基準を遥かに上回るG2レベルを全棟で提供させていただいている。もちろん、ZEHも全社を上げて推進しており、現在73%(18年度実績)まで比率を高めてきた。一方、これから差別化を図っていく上では次のフェーズに入ってきたと考えている。そこで注力しているのが全館空調システムである。嘗ては高級品という印象もあったが高断熱化が進むことで、さらなる健康・快適性の向上、省エネ化を図るには空調・換気をどのように制御していくかという技術的要素が重要となる。涼しい・暖かい風を全室にどうやったら届けられるか。空気質をいかに高めるか。当社ではルームエアコン1台で温度調整し効率よく給排気する『マッハシステム』を採用し先の要素を実現させている。イニシャル、ランニングコストもエアコンを全室に設けるよりも大幅に安く、交換費用もファンとエアコンの入れ替えのみで済む。ただ、より善い住まい環境を普及させるためには1社だけでは叶わない。同工法を共有し、全国の仲間とこの設計思想の浸透を図っているところです。
―どのようなシステムですか?
廣石会長 『YUCACO』も『マッハ』も全館空調システムの1種。仕組みを簡単に説明すると、熱交換気ユニットを通じて、新鮮な外気の取り入れと住居内の排気を行い、1畳程度の空調室に配置したルームエアコン1台で室温をコントロールし、暖冷房された空気をダクトやエアチャンバーで各居室へ運ぶというもの。部屋間の温度ムラを無くし夏は涼しく冬暖かい住環境を提供でき、ヒートショック等の予防にも貢献する。ルームエアコンから吹き出す不愉快な風や冷暖房が効き過ぎるということも生じない。空気清浄機と同じように空気質を高める効果も研究結果から得られており健康増進に繋がる。ペットの臭い等も軽減されるといった多くのメリットがある。温度差の少ない空気を各部屋に送ることで実現している。従来の全館空調では風量と温度をバランスさせるのが難しかった。例えば、冷房では風量が多すぎると寒い、少なすぎると効かないといった具合。部屋間に温度差も出る。また断熱性と気密性が低かったために省エネ化を両立できなかった。ダクトをうまく通す必要もある。であれば設計者が高断熱化を図った上で空調・換気を組み込んだ工法を開発しようと生まれたのが『YUCACO』と『マッハ』である。坂本先生も関連分野において造詣が深く、アイ・ホームさんも然り、全国100社の事業者と共同で普及を図っている。徐々に認知も進み年間1,000棟を超えてきた。
坂本教授 しかし、この良さをどのようにうまく施主に伝えるか。
田村社長 口頭で説明するのは至難の業であることから、当社ではモデルハウスを県下に3ヶ所設け、ご家族で宿泊して頂いている。高断熱の良さも実感される声が多く、紹介や口コミで訪れる方が増えてきた。
廣石会長 エアコンに比べ吹出温度と室温との温度差が小さいことも十分伝わる。ある世帯だと「猫が引っ越してきた」という話もあるほど。動物ですら快適性が判る事例がある。
―なるほど。更に普及させるには?
廣石会長 空調・換気はどのような建築物にも必要であることから小規模店舗、介護施設などでの導入が増えてきている。空気質の向上という意味では海外も視野に入っており既に中国での展開も始まっている。住宅分野以外での活用による普及を期待したい。
田村社長 当社としては、この優れたシステムを活かした上でさらに一歩。原点回帰が重要ではないかと思っている。日射取得を上手く調整することや地域の地形といった観点。パッシブであり建築家としての発想をもってお客様の為にいかに設計するかを考え、より善い住宅環境を日本中に広めていきたい。
坂本教授 だんだん軌道には乗ってきた。特に地域ビルダーが積極的に採用を進めている。システムとしては集合住宅に拡大し体験者を増やすことで、一般の認知度も高まっていく。また、この市況下、差別化を図る上で大手ハウスメーカーも空調と換気分野に着目し、真剣に取り組み始めることだろう。すると一挙に高断熱と空調・換気の重要性に対する理解が広がっていくのではないかと考えている。
―高断熱化に空調・換気という視点。さらにはパッシブな発想が求められるのではないか、ということですね。ありがとうございました。
※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.59に掲載したものより抜粋しています。
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2024/7/10 0:00
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2024/10/20 0:00