News Release

【News Release】豊橋技術科学大学:後熱処理による短絡した固体電解質の性能回復

2021/1/27 18:35

【News Release】豊橋技術科学大学:後熱処理による短絡した固体電解質の性能回復

2021/1/27 18:35

発表日:2021年1月27日
発表者:豊橋技術科学大学
表 題:後熱処理による短絡した固体電解質の性能回復

<概要>

 豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 稲田 亮史 准教授とカルガリー大学理学部化学科 Venkataraman Thangadurai 教授の研究グループは,リチウムデンドライトの析出・伝播により劣化した全固体リチウム二次電池用固体電解質の性能回復に対する後熱処理の効果を調査しました。後熱処理した固体電解質は,初期値より若干低下するものの室温下で 10-4 S/cm 以上の高いイオン伝導率を保持することを見出しました。本成果は,全固体電池の使用中にリチウムデンドライトにより劣化・短絡した固体電解質を,別の電池用部材として再利用し得る可能性を示すものです。

<詳細>

 リチウムイオン伝導性無機固体電解質材料の開発は高い安全性と信頼性を備えた次世代型全固体リチウム二次電池の実現に必要不可欠です。数ある酸化物系固体電解質材料のうち、ガーネット型結晶構造を持つ酸化物イオン伝導体 Li7La3Zr2O12(LLZO)は,室温下で高いリチウムイオン伝導率を示し,金属リチウムに対しても高い化学的安定性を示すことから国内外で広く研究されています。

  金属リチウムは非常に大きな理論容量密度(= 3,860 mAh/g)と卑な電極電位を持つため,本材料を負極に使用できれば高いエネルギー密度を持つ全固体電池の実現が期待できます。しかしながら,脆性材料である酸化物系固体電解質と低抵抗な接合界面を実現することは大きな課題の一つであり,界面の接合状態が不良な場合や高電流密度下で電池を作動させた際には,充電時に不均一に析出した樹枝状金属リチウム(リチウムデンドライト)が LLZO の粒界に沿って成長・伝播し,最悪の場合電池の内部短絡を引き起こす懸念が指摘されています。

 リチウムデンドライトによる電池の内部短絡抑制は全固体リチウム電池の開発において最も注力すべき技術的課題の一つである一方,材料資源の有効利用の観点から短絡・劣化が生じた LLZO の再使用の可能性を検討することも非常に重要と言えます。LLZO 内に析出・伝播したリチウムデンドライトが少量であり,かつ短絡が発生した場所が極めて局所的であれば,リチウムデンドライトを除去した LLZO は再使用できる可能性があると考えられます。そこで研究チームは,LLZO 固体電解質の両端面に金属リチウムを圧接した対称セルを構成し,通電試験中にリチウムデンドライトの析出・伝播により短絡・劣化した LLZOの再利用可能性を精査することを初めて試みました。

 短絡挙動が見られた対称セルから LLZO を取り出し,エタノール中で LLZO 端面に接合した金属リチウムを除去した後,800~900°Cにて数時間大気中での後熱処理を行いました。熱処理したLLZOは作製直後のLLZOよりも若干特性は劣るものの,室温下で依然として10-4後熱処理による短絡した固体電解質の性能回復~リチウムデンドライトで短絡した全固体リチウム電池用部材の再利用に向けて~S/cm 以上の高いリチウムイオン伝導率を保持することを見出しました。この伝導率の減少は,LLZO 内に生成した異相や金属リチウムが接していた LLZO 端面近傍の微細構造変化に起因し,後熱処理した LLZO における伝導率の減少の度合いは,LLZO 端面においてリチウムデンドライト析出・伝播が生じた領域の大きさに影響を受けることも明らかにしました。更に,後熱処理を施した LLZO と金属リチウムを用いて再構成した対称セルにおいて,セル内でのリチウムの充放電反応が行えることも実験的に確認しました。

<今後の展望>

 研究チームは,後熱処理した LLZO固体電解質におけるリチウムイオン伝導率の低下は,後熱処理条件の適正化により更に抑制できると考えています。また,本共同研究で得られた成果は,リチウムデンドライトにより短絡・劣化した固体電解質の別の全固体電池用部材への再使用に向けた可能性を示すものと言えます

〔公式ページ〕
▷https://www.tut.ac.jp/docs/PR210127.pdf
※掲載テキストは発表情報の全文または一部抜粋です。元となるプレスリリースは発表元による発表当時のものであり、最新情報とは異なる場合があります。※詳細情報は公式ページをご参照ください