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【Special Interview】坂本雄三 東京大学名誉教授:認定資格『スマートマスター』を一般教養に

2021/1/20 8:00

【Special Interview】坂本雄三 東京大学名誉教授:認定資格『スマートマスター』を一般教養に

2021/1/20 8:00



 教養とは人間性・知性を磨き高めることだという。目まぐるしく変化する社会。スピード感をもって対応していくには個人だけでなく、社会全体へ常に新鮮な知識の獲得と浸透が求められる。他方、コロナ禍の終息、脱炭素化の推進など中長期的視点をもって課題解決を図るには―。住宅・建築関連随一の有識者で一般社団法人ZEH推進協議会の代表理事を務める坂本雄三 東京大学名誉教授に今後の業界の在り方について訊いてみた。

─まず、新型コロナウイルス感染症は関連業界へどのような影響を与えていると分析されますか。

坂本名誉教授 周知の通り、新型コロナウイルス感染症の影響によって社会・経済ともに大きな変化が表れています。当面はワクチンや療法の開発をもって終息を願うしかありませんが、住宅・建築だけでなくあらゆる業界の産官学が一体となって対策を練っていく必要があるでしょう。

 「密集・密接・密閉」という3密を避ける点においては高性能換気・空調システムの整備、抗菌に資する建材、空気清浄機の導入、非接触に対応する宅配ボックスやドアホンの活用、テレワークやオンラインを想定した設計変更など、既に有効と考えられる手段・方法が出始めています。

 一方、これらのソリューションは果たして感染症に対してどの程度、貢献するのかといった効果測定・知見がまだまだ不足しています。今回の状況を乗り越えたとしても、古くはスペイン風邪、近年では鳥インフルエンザ、SARSといった流行り病は歴史が示す通り、将来も起こりうることは否定できません。

 今回のコロナ禍は、この意味であらゆるエビデンスを収集していく、またレジリエントな社会の構築を加速させる契機、転換期になったと言えます。現在は確かに困難な状況であることに変わりはありませんが、人類社会が前進するというポジティブな側面も忘れてはならないと考えています。

─転換期であると。他方で脱炭素化の推進も加速していきそうです。

坂本名誉教授 先般、菅総理が所信表明演説で「2050年までに脱炭素社会の実現」を宣言しましたが、地球環境問題、気候変動といったテーマを遡れば、70年代のオイルショック、90年代には京都議定書、そして近年のパリ協定と半世紀近く議論されてきたものと言えます。解決に向け緩やかに推進されてきたところですが、この宣言をもってさらなる加速が期待されます。

 とはいえ、定められた目標年までの時間は長いようで僅かしか残されていません。ひとつの解決策として、まさに住宅分野ではZEH、中・大規模建築はZEB、それらを繋ぐVPPやスマートシティといったベースとなる技術が確立されてきました。国や自治体からの支援・補助も手厚い。

 社会的な関心も高まってきましたが、今後、如何に標準化や普及拡大に向けて周知を図り、実現していくか。メーカー、事業者、団体など関連する皆様の叡智が未来の鍵を握っています。政策的には我が国のエネルギーシステムの在るべきカタチを今、描いていく必要があるのではないでしょうか。

─技術は出揃っている。では、普及させるにはどのような展開が考えられますか。

坂本名誉教授 異なる事象にみえるコロナ禍と脱炭素化の推進ですが、あえて俯瞰するならば、その未来は同じ座標へ向かっています。例えばZEHに関しては地球温暖化対策だけでなくウイルス対策に資する技術が組み込まれています。高性能な熱交換換気が最たるものですが、このほか、高断熱・気密により健康・快適に過ごせる。太陽光発電、蓄電システム、給湯機などのエネルギー設備は停電・断水といった万一の防災対応(レジリエンス)にもつながります。これらより良い生活環境をめざしていくということが様々な社会的課題の解決策となりえるわけです。

 ただ、これまであらゆる学問体系、関連業界では縦断的な研究や取り組みが中心に行われてきました。ですから、例えば建築業界においては家電を含む設備機器に精通しているヒトは少ないと考えられます。躯体や構造に造詣が深くても設備機器に関しては門外漢というように。この逆もまた然りです。

 さらに情報通信分野としてデジタル技術の活用が必須といった時代の波も押し寄せています。今後の世界はこれらを一体となって眺める。分野横断的な思考が求められてきます。其れはもはや一般教養、常識といえる感覚となっていくでしょう。また溢れんばかりの情報、知見、技術は常にアップデートされていく。更新してもいかなければなりません。

 この中で家電業界においてリサイクルや販売・修理に伴う資格審査、政策立案などを担い由緒ある団体として知られる一般財団法人家電製品協会さんの取り組み、認定資格『スマートマスター』は幅広い知識の獲得や業界を革新していくような文化の醸成といった意味で大いに貢献されていくことでしょう。この資格ではスマートマスターの育成による次世代住宅の普及を通し「先進技術を活用し様々な機器やサービスを連携させ安全・安心、健康、快適な生活を実現させる」「エネルギー問題だけでなく少子高齢化に伴う諸問題の解決を図る」といった壮大なテーマが掲げられています。

 経済産業省『ZEHロードマップフォローアップ委員会とりまとめ』(平成30年5月公表)の中で「ZEHの設計ノウハウの標準化の検討」として民間事業者が取り組むべき施策に「スマートマスター等の認定制度との連携も視野に入れつつ、ZEHに携わる人材の育成を推進する」とも明記され、普及の要と位置づけられています。次代の住まいを考える優れた教育制度として期待しています。

 世界を変えていくのはヒトであり、よりよい社会、世界を創っていくのは人材育成にあるのではないか。それが社会課題の解決、ZEH・ZEBの標準化などにも繋がっていく。そう考えています。

─なるほど。人材育成がより良い社会形成の鍵を握るというわけですね。ありがとうございました。



【協会概要】
一般社団法人家電製品協会 認定センター
〒100⁻8939
東京都千代田区霞が関東急ビル5階
TEL:03-6741-5609
FAX:03-3595-0766

詳しくは認定センターホームページまで
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スマートマスターについてはこちら↓
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