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【政策】改正建築物省エネ法、 押さえておきたい5つのポイント

【政策】改正建築物省エネ法、 押さえておきたい5つのポイント

 19年11月に一部施行された改正建築物省エネ法だが、21年4月にも追加の改正内容が施行される。そこで既存の省エネ法から大きく変わる5つの改正点について纏めた。
 まず19年11月に①トップランナー制度の対象追加、②複層建築物連携型プロジェクトの容積率特例制度の対象追加、③届出義務制度の審査手続き合理化の3点が改正された。残りは21年4月に④適合義務制度の拡張、⑤説明義務制度の創設を予定する。適合義務制度は小規模住宅まで拡張されることが期待されていたが、説明義務化に留まり、トップランナー制度の対象に注文住宅大手が追加される形となった。施行に合わせて国土交通省は全国各地210会場で詳細説明会を開催。小規模または中大規模の住宅・建築物事業者向けと所管行政庁などの審査者向けの3部構成で解説を行った。
 戸建住宅向け説明会では改正概要を説明した後、省エネ施工技術講習を行った。説明義務の施行に伴い21年4月に追加される『戸建住宅簡易計算ルート』の算出方法や適切な断熱設計を解説。この方法では外皮性能と一次エネ消費量を分けて算出する。外皮性能は部位別の固定値とカタログの性能値を掛け合わせた合計値により適否を判断する。一次エネ消費量は各種設備に割り当てられたポイント数の合計値が100以下であれば適合とみなす。実際の数値より幅ができてしまうため建築主へ説明書面を提出する際に同計算方法を用いて作成することを推奨している。その他断熱設計のポイントや省エネ効果の長期保持のための適切な住まい方などを紹介した。説明義務やトップランナー制度など規制こそ強まったが、算出方法や提出書類は大幅に簡略化された。高性能住宅の促進への影響に期待が寄せられる。

ポイント①トップランナー制度対象追加

 同制度は事業者に対し、供給する住宅を断熱性能の確保や高効率設備の導入等により省エネ性能を向上させるよう促すもの。定められた水準を大幅に満たさない場合は勧告や罰則が発生する。この制度の対象に旧制度の建売戸建住宅を供給する大手ハウスメーカーだけでなく、注文戸建住宅や賃貸アパートを供給する大手事業者が追加された。今後注文戸建住宅を年間300戸以上、賃貸アパートを1,000戸以上供給する事業者も対象となる。そのため20年度からは供給戸数や省エネ性能などを集計し年度内に報告しなければならならず、対象事業者は細心の注意が必要となる。

ポイント②容積率特例制度の対象追加

 住宅は省エネ基準の-10%、建築物は同-20%に適合すると性能向上計画として認定される。認定された建物の省エネ性能向上のための設備の設置スペースに関し容積率の特例(住宅・建築物の延べ面積の1割を上限)がある。この対象に複数の建築物の連携による取組を追加した。具体的には、全ての省エネ機器を1棟に集約することで複数建築物を単棟とみなせる。トータルで計算した後、各棟にエネルギー消費量を分配しBEIとBPIを出力することとなった。また共同住宅の省エネ性能評価方法の入力データ数を大幅に削減する。各住戸の外皮性能を計算してきたが、今後は階ごとに算出できる。

ポイント③届出義務制度の手続き簡略化

 施行前は300㎡以上の住宅や建築物の新築時に、省エネ計画を着工21日前の届け出を義務付けていた。この期限を民間審査機関による評価書を提出することで3日前まで短縮できる特例を設けた。民間評価書は設計住宅性能評価書とBELS評価書が認められている。設計住宅性能評価書であれば断熱等性能等級と一次エネルギー消費量等級の両方で等級4以上の取得が必要となる。共同住宅の場合は全ての住戸で条件を満たさなければならない。BELSであれば非住宅部分は全ての部分で、住宅部分は全ての住戸での取得が条件となる。これらをクリアすることで、省エネ計算書や省エネ性能に係る設計図書等の提出図書を不要とする。

ポイント④適合義務制度の拡張

 同制度は省エネ基準に適合しなければ新築非住宅建築物の着工を不可とするもの。現在は2,000㎡以上の建築物を対象とし、2,000㎡未満300㎡以上については届出義務の範囲内としていたが、改正後は300㎡以上から適合義務制度の対象となる。ただし畜舎や自動車駐車場などの居室を有さず高い開放性を有し空調設備が不要な建築物は適応除外となる。その他、保存のための措置などにより省エネ基準に適合させることが困難な建築物や仮設建築物も除外の対象となる。また高い開放性を有する部分や住宅・非住宅複合建築物の住宅部分は床面積に算入しない。審査事項が満たされていない場合は、確認・検査済証が発行されず、着工や開業が遅延する可能性があるため注意が必要となる。

ポイント⑤説明義務制度の創設

 300㎡未満の住宅や建築物の設計時に建築士が建築主へ書面で省エネ基準について説明することを義務付ける。施行日以降に建築士が委託を受けた場合、基準に適合しているか、不適合の場合は省エネ性能向上のための措置について説明を行わなければならない。同時に建築主の適否意思の確認も必須とする。この時省エネ性能評価で用いる地域区分は19年11月に改正したものと従来のもののどちらでも構わない。説明に用いる書面を建築士事務所の保存図書に追加することも検討している。
 創設に伴い簡易に省エネ基準の適合を計算できる方法を作成する。これまで性能基準の計算方法は部分面積を計算する『詳細起算ルート』と部分面積を計算しない『簡易計算ルート』の2種類を用意していた。ここにカタログの性能値や設定値を用いて外皮性能と一次エネルギー消費量を手計算で算出できる『戸建住宅簡易計算ルート(モデル住宅法)』を追加する。また建築事務所の保存図書に同書面を追加する。なお気候風土適応住宅については外皮基準が適応除外となり、一次エネ基準が合理化される。対象は塗壁や落とし込み板壁など伝統的工法を採用し、住宅全体として外皮基準への適合が困難となる仕様とする。

※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.63に掲載したものより抜粋しています。