蓄電池

世界大手第三者認証機関に訊く 蓄電システムの安全性

世界大手第三者認証機関に訊く 蓄電システムの安全性

 世界的な再エネ普及に伴い蓄電市場も右肩上がりに拡大傾向に在る。卒FITを迎える我が国も然りだが、先行地域では既に安全性に対する議論が始まっている。特に米国では『UL 9540A』というレポートの取得が必須化にされる動きがあるという。一体どういうことなのか。世界大手第三者認証機関の日本法人UL Japanに訊いてみた。

米国市場必須の『UL 9540A』レポート

 ULは1894年にアメリカで創業した老舗の第三者認証機関。当初は配線関連を中心としてきたが、社会インフラの発達に伴い家電、エネルギー、医療関連といった幅広いテーマに関する“安全性”を追究している。業務提供国は140カ国超え。発行規格数は1600以上あり、このうち半数が米国国家規格(ANSI)に採用されるなど世界トップクラスの安全科学機関として知られる。日本国内で言えばJETに相当すると言えば理解しやすいだろうか。地域的な認証・研究機関と連携し国際規格の策定にも携わっている。本題の電池関連については30年以上前からR&Dをスタート。知見と安全への視点を提供している。
 
 UL Japan営業本部の田村アカウントマネージャーは世界の蓄電システム市場について「再エネ普及に伴い16年より欧米各国だけでなく中国・インド・アジア圏で需要が高まってきている。特に米国における約30の州では蓄電システムの導入目標を定めるなど力が入っている。種別には鉛や他の技術に比べ、容量、設置スペースやコスト面で利点があるとされるリチウムイオン電池が約8割を占める」と状況を分析した上で「ニューヨーク市では普及推進と共に安全要求事項が定められている。この動向は全米に波及することもあり、同国へ参入しようと検討する企業を中心に世界から注目が集まっている」と説明する。

 背景にあるのは高密度のエネルギーを溜め込んだ蓄電システムは、他の電気機器製品と同様に発火・火災だけでなく爆発やそれによる類焼の可能性がゼロではないため。「日本を含む各国で熱暴走や火災事故が目立ってきており、米国では既に蓄電システムと火災事故に対する問題提起が行われInternational Fire Code(IFC:国際防火基準)の開発・対策が進んでいる」という。我が国においても認証規格は存在するが、欧米に比べ規格数はまだ少ない。家庭用だけで年間10万台規模で設置が加速するなか先進地域の動静は注視したいところだ。

発火要因を特定事故発生時までを考慮する 

 どのような安全対策が図られているのか。蓄電池を対象とするUL規格には製品そのものの安全性を図るものとしてセル(UL1642:1985年)、モジュール(UL1973:2013年)、システム(UL9540:2016年)レベルで見た場合の大きく3つある。いずれかの試験をクリアすればULマークが付与される。日本で言うところのJISやPSEといったところである。つまり「一定程度の安全性を確保した製品ですよ」ということになり市場流通していく。これに加え「ニューヨーク市で求められているのはUL9540Aというもの。認証規格ではないが『熱暴走した場合にどのような事象が起こるのか』という特性を評価する性能試験レポートを提出することが必須となってきている」と指摘する。

 これは単セルに対し釘刺や過電流等を強制的に行いセル、モジュール、システムレベルでの燃え方、ガスの放出率などの挙動を確認するという試験である。「あくまで同レポートを発行したからといって『さらに安全』という訳ではない。『燃えたときどうなるか、ガスはどのように発生するのか』を確認するもの。得られた特性データから設置や換気、防火対策、消化方法に役立てるという位置づけ」だという。しかしながら、消防側からのニーズが高まり必須化されていった背景を考慮すると、今、米国で考えられていることは事故発生から消火(解決)までを含めた安全性が求められているということになる。

 「一般的には安全認証規格の取得だけに留まり『何か起こった時にどうなる』というところまで踏み込み、要因を特定しているケースは多くない」とする。続けて「公開情報ではないため発行数は回答できないが大手から中小、日本だけでなく世界各国からの問い合わせが多い。前述の通りニューヨーク市に導入しようとすると、このレポートがほぼ必須となっている状態。ここで対応できれば他の州や世界展開できる可能性が高いため注目度は高まっている」と話した。普及拡大の兆しが見え始めた日本。一度立ち止まって安全性にも目を向けたい。

※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.56に掲載したものより抜粋しています。