第2次安倍政権発足と同時に安倍首相のアドバイザーとなる内閣官房参与に就任し、防災・減災ニューディール政策担当として「国土強靭化基本計画」の策定に大きく関わった京都大学の藤井聡教授。現在は国土強靭化に関する有識者会議「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」の座長として総合的なレジリエンス施策の在り方を検討している。災害大国ニッポンが目指すべき姿とはどのようなものか。創・蓄・省エネ機器を活用したレジリエンス住宅への期待値は如何に。レジリエンス研究の権威に訊いてみた。
藤井教授が提唱する レジリエンスを教えてください。
レジリエンス(resilience)は、社会を一つの有機体と見なした時に、その有機体が如何なる危機に直面しても維持し続けられる、弾力性のある「しなやかさ」を言うもの。つまり、あらゆる外力が加わったとしても、致命傷を受けることなく、被害を最小化し、迅速な回復を果たす、そういった社会の力をレジリエンスと呼んでいます。この力を備えていれば、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震などをはじめとする大規模災害によって、国家の存続そのものが危ぶまれる事態を防げることは言うまでもありません。これまで様々な危機を経験してきた今、現代社会に最も求められているのは、このレジリエンスを如何にして確保するかに尽きるわけです。
実際、レジリエンス強化のために国全体での投資はどれくらい 必要なのでしょうか?
土木学会推計では、南海トラフ巨大地震で壊れる建物の直接被害が170兆円、交通インフラ寸断や生産施設が影響を受けることによる20年間の経済被害が1,240兆円で計1,410兆円。首都直下型地震が起きた場合は計778兆円とされています。これらに対し、住宅・建物の耐震補強など約60兆円の防災・減災対策投資等により南海トラフについては4割、首都直下型については3割程度の被害を減ずると試算されています。今後30年以内に巨大地震が起きるリスクを考慮すると、約60兆円の投資は少なくとも15年で完了すべきで、年間4兆円の防災・減災対策投資スピードが必要だとしています。自身は、年間で20兆円の投資が急務だと考えており、現状の5倍速で進めていかねばならないと思っています。このためにも、公共投資を鈍化させレジリエンスの脆弱化に直結してしまう“緊縮財政”を脱却し、強靭化のための投資拡大が優先されていくことが望まれます。
昨今では大規模災害による 停電でエネルギー防災が 一層注目されていますが。
国土強靭化の取組みは、すべての省庁に亘っているものですが、とりわけエネルギーのレジリエンスは重要なものとして位置づけられています。施設・建物の耐震化等を進めたところで、エネルギーの持続性がない限り、この社会を維持していくことは難しいです。そのためエネルギーのレジリエンス強化は必須で、①エネルギー供給関連施設等(集中電源)における自家発電設備・蓄電池などの整備、耐震化対策と、②公共施設・建物・住宅(分散電源)における自家発電や蓄電池など自給自足のエネルギー体制の整備、この両軸を強靭化していくことが求められます。特に後者については非常時に100%エネルギーを自分で調達でき、かつ周りにもシェアできるような「自立・分散・協調型システム」の仕組みづくりが重要。当然ながら太陽光発電や蓄電池などのエネルギー機器の普及は必須となります。また、今後注目されている分散したエネルギーを統合制御し仮想発電所とするVPPの技術も、地域単位でエネルギーのレジリエンスを強化していくものとして非常に期待できるものです。
「自立・分散・協調型システム」は今後どのように広めていけば 良いのでしょうか?
こうしたエネルギーのレジリエンスを強化するには防災と省エネの両サイドから施策を進めていく必要があります。防災と省エネは親和性が高く、太陽光発電や蓄電池などのエネルギー機器を普及させることで図らずもレジリエンス地域を形成できます。そして、それを担うのが地域のビルダーや工務店ではないでしょうか。耐震性を高め、太陽光発電や蓄電池等のエネルギー機器を導入してレジリエンス性を高める建築行為は当然ながらイニシャルコストの上昇をもたらします。消費者が必ずしも選択するものとは限りません。しかしながら、強靭性を高める投資、より高いレジリエンス性を持った住宅を購入することは長期的にはトータルコストを最小化する効果があるため、家計支出の観点からも合理的な行為といえます。レジリエンス住宅にかかるコストアップを一種の保険のようなものとして捉えることもできるでしょう。こうした考え方を消費者にしっかり周知し、レジリエンス住宅が普及することで消費者の強靭化を高め個々の安心安全を確保すると同時に、地域全体のレジリエンス向上にも寄与されます。無論、付加価値の高い住宅を販売することは業界のビジネス拡大を意味し発展にもつながります。買い手よし、売り手よし、世間よしの典型的な三方よしのビジネスであることを認識し、今後展開されていくことに期待しています。
※本記事は月刊スマートハウス別冊 『ZEH MASTER 2019』 に掲載したものより抜粋しています。
PR
2024/7/10 0:00
PR
2024/10/20 0:00