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毎年恒例!花粉のピーク到来!! 花粉症に備えるこれからの住宅づくり

2020/2/18 10:00

毎年恒例!花粉のピーク到来!! 花粉症に備えるこれからの住宅づくり

2020/2/18 10:00

 本誌『月刊スマートハウス』発刊日の2月20日「アレルギーの日」にあわせて、長きに亘って多くの人々の悩みの種となっている花粉症について、花粉研究の第一人者である埼玉大学大学院理工学研究科 王青躍教授に訊いた。


埼玉大学大学院理工学研究科 王青躍教授

微小粒子が悪さする花粉の特性と日本の現状

 王教授は「スギ花粉を例に挙げると、花粉症とは花粉個体によって引き起こすものではなく、固体に付着するユービッシュ小体に含まれる花粉アレルゲン“Cry j 1”と、花粉個体内部の花粉アレルゲン“Cry j 2”によって発症する」と花粉症に至る理由について解説した。花粉アレルゲンは、通常花粉個体に付着したまま空気を漂っており、個体とともには少量の雨などの影響を受け落下する。ただし、花粉個体は大気汚染の影響を多大に受け、汚れた水気を吸収することによって膨張、破裂現象を引き起こす。花粉個体が破裂することで花粉アレルゲンは飛散し、そのサイズはPM1.0(1.0㎛以下の微粒子)以下レベルと非常に小さく、呼吸器系全てに到達する大きさだという。王教授の研究では、スギ花粉アレルゲン“Cry j 1”は0.06~2.1㎛の粒径範囲で存在していることが分かった。これに対し「体内に取り込まれる粒子サイズは喉で4.7~11㎛、気管支で2.1~4.7㎛、肺胞は2.1㎛以下であり、最悪の場合、細胞死・炎症等の影響から喘息、肺炎などの症状にも繋がる」ということからも、その脅威は明らかだろう。



 そんな脅威の花粉症も下図のように東京都健康安全研究センターが発表した資料では都全体でスギ花粉症の有病率が平成28年度時で48.8%に達していることから今や2人に1人が発症する時代となっている。これは「技術が発展したことで戦後と比べ大気はきれいになった反面、体内の免疫機能が低下してしまった。加えて、大気中に漂う有害な物質が見えづらくなってしまったことも原因の一つ」と王教授は考えている。



 花粉症によって体内の免疫機能が低下すると様々な症状へ発展する可能性がある。花粉症には大気汚染が原因の一つとされているが、例えばディーゼル排気ガスには多環芳香族炭化水素などの非常に毒性の強い発がん物質が含まれているという。粒子サイズは平均0.3㎛で、吸入した場合は花粉アレルゲン同様、肺深部に沈着しやすい大きさである。「花粉症の状態で発がん性物質を取り込むと癌が発症しやすい」のだという。

 一方、環境省が設けている微小粒子状物質に係る環境基準では「1年平均値が15㎍/㎥以下であり、かつ、1日平均値が35㎍/㎥以下であること」が基準となっているが、これは濃度に対する指標である。花粉症発症に濃度は関係なく「その1/1000の濃度でも発症する可能性がある」のだという。となれば必然大きさや毒性にも規制対象とすべき問題ではあるが「日本ではPM2.5クラスの大きさまでしか環境基準が設けられていない。本来ならPM1.0、0.5クラスを規制するのが望ましいが、国民は自分で自分を守らなければならない現状と言える」と述べた。

個々の対策から住宅づくりまで花粉症を抑制する有効策

 最近は住宅の高気密・高断熱化が進んでおり、開放型住宅と比べ自然に空気の入れ替えが行われないことから「大量の室内汚染物質に曝される可能性が高くなっている。室内空気質の保持はすごく重要で、換気や適切な温湿度の調整が求められる」という。そのためにも、換気システムを稼働させる。加湿器を地面よりも高い位置に置くといった対策がある。温度であれば25℃前後、湿度であれば40~60%で維持することが最適な環境とされている。それでもなお乾燥を感じるようであれば「自身でマスクをつけるなど保湿を行うと良い。他にも微粒子を再度巻き上がらせないために掃除の際には二度拭きをしてから掃除機をかけるといった工夫が有効的だ」としている。

 こうした様々な対策が挙げられるなか、住宅づくりという観点においてどのような工夫が有効であるかを訊いてみたところ「漆喰や木炭などの自然素材を使った塗料や建材などが有効」としている。例えば木炭のような素材は“多孔質材料”と呼ばれ、直径2~50㎚の微細な孔“細孔(さいこう)”が多く存在している。この細孔が花粉アレルゲン、揮発性有機化合物(VOC)、PM2.5といった物質を吸着し、室内浮遊を抑制することが出来るのだという。また、エアコン、換気、空気清浄機を一体化させた全館空調システムのなかには、一定の大きさの埃などを静電気を用いて集める集塵フィルターが搭載されているものもあるが、一部の製品を踏まえ0.3~1.0㎛程の微粒子を集めることが出来る。

 ただし、ウィルス、排気ガス成分含め、花粉アレルゲンのなかには0.3㎛を下回るものもあることから「今後は花粉アレルゲンそのものの効力を弱めることも重要になってくるだろう」と語った。1つ例に挙げるとマツ科モミ属の樹木トドマツの抽出成分には空気浄化作用に優れ、アレルゲンの抗体抗原反応を弱める効果を持つという。王教授はこの特性を活用し換気口付近に別のチャンバーをつけるような提案を考えている。「次の世代のためにきれいな空気環境をつくるには、今後の技術開発は先見の明をもって科学ベースで考えていく必要がある」とポイントを述べた。

 花粉症を抑制する様々な工夫を紹介したが、王教授は「質の良い睡眠、栄養管理、ストレス緩和、洗顔・手洗い・うがいといった健康管理が必須となる。それらを踏まえたうえで花粉を家に持ち込まないことを心がける。市販の空気清浄機を玄関口に置くといった対策も有効で、比較的大きな微粒子であれば蔓延を抑制できる」と個々の意識改善や対策の重要性について語った。

※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.61に掲載したものより抜粋しています。