News Release

【News Release】東京理科大学:超高容量を示すナトリウムイオン電池用炭素負極材料の開発に成功

2020/12/14 18:05

【News Release】東京理科大学:超高容量を示すナトリウムイオン電池用炭素負極材料の開発に成功

2020/12/14 18:05

発表日:2020年12月14日
発表者:東京理科大学
表 題:超高容量を示すナトリウムイオン電池用炭素負極材料の開発に成功
~リチウムイオンを超える高エネルギーなナトリウムイオン電池の実現へ~

 東京理科大学理学部第一部応用化学科の駒場慎一教授(責任著者)、理学研究科化学専攻の神山梓氏(修士卒、筆頭著者)、研究推進機構総合研究院の久保田圭嘱託准教授、物質・材料研究機構エネルギー・環境材料研究拠点の館山佳尚グループリーダー、Youn Yong NIMSポスドク研究員、岡山大学大学院自然科学研究科の後藤和馬准教授らの研究グループは、これまでのナトリウムイオン電池の負極材料よりもはるかに高い容量を示すハードカーボン(難黒鉛化性炭素)の合成に成功しました。本材料を負極に用いた高エネルギーなナトリウムイオン電池の実現が期待されます。

 ハードカーボンは可逆容量(使用可能な容量)、作用電位、サイクル寿命、資源の豊富さのバランスが良いことから、ナトリウムイオン蓄電池の最も有望な負極材料です。 研究グループは、グルコン酸マグネシウム(Mg(C6H11O7)2)とグルコースの混合物を加熱して酸化マグネシウム(MgO)粒子を形成し、それを鋳型とする合成方法により、これまでの炭素負極材料よりも極めて高い容量を示すハードカーボンを合成することに成功しました。ハードカーボンの可逆容量を最大限に引き出すために、ハードカーボンの合成条件と電気化学特性についての体系的な研究を行いました。

 その結果、600℃で混合物を前処理加熱することで、生成される炭素マトリックスの中にナノサイズのMgO粒子が形成され、その後の塩酸による洗浄と1500℃での高熱処理を通して、ナノサイズの空孔を多く持つハードカーボンが合成されました。この材料を負極としたナトリウム電池は478mAh/gという非常に大きな可逆容量を実現し、初回充放電におけるクーロン効率(充放電効率を示す指標の一つ。充電に要した電気に対する有効に取り出せた放電電気量の比)も88%と高い値を示しました。リチウムイオン電池の負極材料である黒鉛の理論容量(372mAh/g)と比較しても、開発したMgO鋳型ハードカーボンは非常に高容量で、同じ容量と電位を示す正極を仮定した場合、黒鉛を用いたリチウムイオン電池に比べ、エネルギー密度比で19%も向上します。

 資源量が豊富なナトリウムを利用したナトリウムイオン電池は、希少元素や毒性元素が不要なため、電力貯蔵用の大型蓄電池として応用が期待されています。リチウムイオン電池と比べて材料資源に優位性はありましたが、エネルギー密度に課題がありました。本研究で合成した高容量かつ高エネルギー密度を示すハードカーボンを負極に用いることで、高エネルギー密度なナトリウムイオン電池の実現が期待されます。

■研究の背景
 ハードカーボン材料は、黒鉛に似た層状構造の部分とナノサイズの空孔(ミクロ孔)という2つの領域から主に構成されています。これらの構造領域はいずれもナトリウムを貯蔵することができ、二次電池の電極としては充電によってエネルギーが貯蔵できることに対応します。2つの領域のうち、ナノサイズの空孔はナトリウムをより多く貯蔵することができるため、電池容量に大きく寄与します。そのため、高容量を示すハードカーボンを合成するには、ナトリウム貯蔵に適したサイズの空孔ができるだけ多く存在するようにハードカーボンの構造をデザインすることが重要です。

 近年、空孔の多い多孔質なハードカーボン材料が420-438mAh/gという高容量を示すという報告がありました。しかしながら、この研究では、ハードカーボンの合成には1900-2400℃と非常に高温での熱処理を必要としており、高い製造コストにつながります。また、高温熱処理によって合成されたハードカーボンでは、電気化学的なナトリウム吸蔵反応(充電反応)の電位が0V近傍と金属ナトリウムの析出電位に非常に近いことから、金属ナトリウムの析出・成長による内部短絡(電池の内部で正極と負極が電気的に接続された状態)が生じ、電池の発火に繋がりかねないという、安全面上の課題も抱えておりました。そこで、研究グループは多孔質ハードカーボンの合成手法から検討しました。

 多孔質な炭素材料の合成方法の1つとして、MgOやゼオライト、シリカなどの無機物を用いた鋳型合成法が知られております。鋳型の分布とサイズを調整することによって、鋳型溶出後に炭素内部に残る空孔の分布とサイズを調節できます。鋳型材料の中でもMgOには、①希釈した酸で簡単に溶解する、②マグネシウムを含む有機化合物は熱分解されると炭素マトリックスの中にナノサイズのMgO粒子を形成する、③MgO粒子の溶出によって炭素材料の内部に空孔が形成される、④MgOおよび炭素の原料を適切に選択することで空孔の分布やサイズを調整可能、といった利点があります。

 そこで本研究では、MgO鋳型法を改良し、熱処理温度も1500℃と先行研究よりも低減し、478mAh/gという高容量を示すハードカーボンを合成しました。

■研究結果の詳細

 MgO鋳型法によるハードカーボンの合成には、マグネシウムを含む有機化合物としてグルコン酸マグネシウムを用いました。それに加えて、鋳型となるMgOの分布やサイズを調整するために、グルコースを混合した原料を混合比率を変えて調製しました。さらに、Mgを均一に分散して混合するために、混合試料の水溶液を凍結乾燥し、粉体混合による調製法との比較も行いました。

 研究グループはハードカーボン材料の研究に10年以上前から取り組んでおり、ハードカーボンの電気化学的ナトリウム貯蔵容量には、前処理工程における処理温度も深く関係していることを突き止めています。そこで、400℃、600℃、800℃と前処理温度の異なる前駆体を調製し、その後の酸処理と乾燥、1500℃での熱処理を経て、ハードカーボン試料を合成しました。合成した試料全てがハードカーボンであることは、X線回折法および小角X線散乱法を用いて確認しました。

 前処理後の前駆体において、MgO鋳型の分布やサイズを透過電子顕微鏡で観察し、合成条件によるMgO鋳型への影響を比較しました。その結果、グルコン酸マグネシウム単体よりもグルコースを混合した方が、粉体混合よりも凍結乾燥を行った方が、MgOナノ粒子が炭素マトリックスの中により均一に分散していることがわかりました。前処理温度は600℃が適しており、前処理によって生成したMgOナノ粒子が鋳型となって、1500℃の熱処理後には多孔質なハードカーボンが得られました。このハードカーボン中に生成した空孔のサイズは前駆体中のMgO鋳型のサイズとほぼ同等であり、第一原理分子動力学計算(実験によって得られた結果を一切用いず、原子の種類と電子数のみに基づき解析する方法)からもこれを裏付けるシミュレーション結果が得られました。

 このハードカーボン粉末を電極として調製し、ナトリウム電池特性を評価すると、478mAh/gという非常に高い可逆容量を示しました。Na基準1V以下という低い電位領域で示す容量としては、世界最高の容量となります。3.7Vのナトリウムイオン電池正極(リチウムイオン電池では4.0Vの正極に相当)を仮定すると、最大でエネルギー密度が19%向上します。また、充電過程における電位平坦部の電位は、従来の高温熱処理によって合成したハードカーボンよりも高く、金属ナトリウムの析出リスクを低減することに成功しました。23NaNMRスペクトルからも、金属よりもイオン性をもったナトリウムとして吸蔵されていることを確認しています。

 合成したハードカーボンの放電過程における平均作動電位(0.085Vvs.Na+/Na)と478mAh/gという高容量から、P2-Na2/3Ni1/3Mn1/2Ti1/6O2を正極材料としたナトリウムイオン電池でのエネルギー密度を材料ベースで計算しますと、358Wh/kgという高い値となりました。これは、2000mAh/gと更に高い容量を示すリン系材料での値よりも高く、炭素材料のエネルギー密度が合金系高容量材料を上回る結果となりました。

 リチウムイオン電池の負極材料である黒鉛の理論容量(372mAh/g)と比較しても、開発したMgO鋳型ハードカーボンは非常に高容量で、負極としてのエネルギー密度も上回っています。これは、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池よりも低エネルギー密度だという、これまでの常識を覆す結果であり、高エネルギーなナトリウムイオン電池の実現が期待されます。

 今回の発見は、ハードカーボン材料の新しい開発指針を与えるものであるだけでなく、ナトリウムイオン電池の正極や電解質といった材料開発が進めば、希少元素を使わない新しい蓄電池の実現を可能とする技術として、たいへん大きな意義がある成果です。

〔公式ページ〕
東京理科大学:超高容量を示すナトリウムイオン電池用炭素負極材料の開発に成功

※掲載テキストは発表情報の全文または一部抜粋です。元となるプレスリリースは発表元による発表当時のものであり、最新情報とは異なる場合があります。※詳細情報は公式ページをご参照ください