特集・連載

【緊急特集】コロナウイルスの猛威:深刻化するモノ不足、住宅引き渡しに遅れ

【緊急特集】コロナウイルスの猛威:深刻化するモノ不足、住宅引き渡しに遅れ

 中国を中心に世界的に感染が拡大している新型コロナウイルス、通称『COVID-19』は、既知の通り、経済にも大きな打撃を与えており、その影響は日本の住宅業界にも波及している。そこで編集部は機器メーカーや商社、大手ハウスメーカー・地域有力ビルダーなど約90社に対し緊急アンケートを実施。現況や今後の見通しについてヒアリングを行った。主にトイレやバスなど生活必需品となる設備が納入できないことから完工に至らず、一部では既に引き渡しが遅れている状況にある。さらに2月末時点では予定通りの引き渡しが進んでいる住宅事業者でも「不足部材の納期の目処が立っていない」ことから、多数が3月以降の引き渡し案件から遅れる見込みであることがわかった。以下、各社公表資料や取材から得た情報をもとに、現在の状況をレポートする。

代替品、途中引き渡し 延長相談等で急場凌ぐ

 今回、積水ハウス、積水化学工業など住宅業界を牽引する大手ハウスメーカーや地域有力ビルダー20社に取材協力を依頼。13社から回答を得られた。各社の情報を纏めると、12社は在庫対応や商品手配によって、2月中の引き渡し案件については予定通り完了した。一方、鹿児島県の有力ビルダー、ヤマサハウスにおいては、2~4月の3ヶ月で約80棟を引き渡す計画の中、2月時点で1~2件程度の遅れがあったという。とはいえ「同案件は代替設備等を利用すれば間に合う状況であったが、クオリティを下げたくないといったお施主様の要望等もあり、引き渡しに至らなかった」としている。
 しかし、急場を凌いだ企業も「国内在庫を消化したが、中国からの供給が復旧していない」(積水ハウス)や「2月度以降の発注よりキッチンIH、食洗機、レンジフード、トイレシャワー便座の各取引先からの受注停止連絡が入り、3月末引渡し邸への影響が出始めている」(積水化学工業)といった経緯から3月中あるいは4月以降にも、遅れが生じると見込んでいる。代替品で対応していくとするも、不足部材の納期に目処が立っていない状況であることから「入居を急がない施主に対しては、引き渡しの延長を相談している」(複数回答)、「未成工事があることを理解頂いた上で、引き渡し書面にて同意書をもらっている」(ヤマサハウス)など施主への説明・相談を急いでいる状況だ。
 引き渡しが遅れることで、事業者側は「工期の長期化による原価悪化」(パナソニックホームズ)や、決済ができず入金されないことから「売上減少」「年間完工棟数の減少、計画の変動」といった収益面に打撃を受けるほか「部材の納期にあわせた職人の手配」や「施主への説明」など作業負担の増大にも繋がる。当然、施主側にも「仮住まいの家賃負担」「アパートの解約時期の調整」「希望設備・部材から変更」などの負担が生じるほか、宮崎県の有力ビルダー、アイ・ホームは、新学期前という時期的にも「学校の入学に合わせての新居生活を考えている場合、遠方からの通学が出てくる」との懸念点を挙げるなど、心配毎は山積みである。さらにコロナウイルスの猛威は、モノ不足による引き渡し遅延だけでない。積水化学工業では、計画していた大規模な販促イベントを中止し、別の施策を講じているなど集客計画にも影響を与えている。言うまでもなく、長引くほど年次計画の遂行は難しくなる。先行きが不透明な今、業界へのダメージはいよいよ計り知れないものとなってきた。

太陽光・蓄電池など省エネ機器 現時点は“通常出荷”多数

 今回、ヒアリングした限りでは、幸いにも社員や職人の感染が起因した事例はなかった。やはり深刻なのはモノ不足であり、集計した結果、今後、共通して足りないとされるのは、トイレ、IHクッキングヒーター、食洗機のほか、バスやシンク・洗面台などの水廻り製品であった。実際、パナソニック、LIXIL、TOTOのトイレや水廻り製品のメーカー側も、商品によっては通常納期で供給できないことを周知し、情報の統制を図っている。他の大手機器メーカーの担当者は答える。「現時点(2月末)の生産ペースは通常通りであった。しかし代替品による特需から下流域でモノ不足が発生している。この状況下、さらに今後は部品の調達について先行き不透明なため、ますます予測しづらい状況となっている」と。特に主要メーカー数が多くない製品は、必然的に代替先が絞られるため、IHや食洗機などの不足が顕著となっている。タカラスタンダードやクリナップ、トクラス、永大産業などシステムキッチンを展開するメーカーも軒並み、一部製品について新規受注の停止や納期回答ができない状態だ。
 国土交通省ではこの状況を鑑み「これら設備が未設置の状態で完了検査の申請がなされる」ことが予想されることから、引き渡し前に必要となる完了検査に携わる都道府県や指定確認検査機関に対し書面を発行し、円滑な手続きの実施を促している。
 一方で、太陽光や蓄電池、パワコンなどエネルギー機器については、ヒアリング結果を踏まえると、不足感は高くない模様。今回、蓄電池も含め積極的に取り入れている住宅事業者にアンケートを実施したが、太陽光は一部、蓄電池においてはいずれも「足りない」と挙げる事業者はいなかった。機器メーカーへのアンケート結果を見ても、回答のあったシャープや長州産業、カネカソーラー販売、海外メーカーであるカナディアン・ソーラーに加え、蓄電池ではニチコン、住友電気工業など「先行きについては継続的な確認を要する」とするも、現在・今後ともに通常またはそれに近い納期で出荷できるとしている。無論、全てのメーカーが正常というわけではなく、一部は販売店向けに太陽光パネルの納期遅延に関する通知を行っている。パネルのフレーム部の組立工程を中国工場で行っていることや生産ラインそのものを中国に構えていることなどが起因しているとされる。
 断熱材については、旭化成建材、カネカケンテック、パラマウント硝子工業、旭ファイバーグラス、アキレスなど主要7社はいずれも正常に出荷できると回答。旭ファイバーグラスは「昨年新工場を立ち上げたため、供給体制に問題ない。原料についても調達先に確認し、現在のところ問題は無い状態」とし、日本アクアも「中国のみに頼らない供給網でリスクを回避している」など生産体制が寄与したとする。

代替品設置がモノ不足に拍車

 平常時も緊急時も製品・部材供給の面で頼られるのは、言わずもがな商流のハブとなる商社であり、この緊急事態に対し、代替品を検討するサブユーザーへの要望に応えるべく奔走している状況にある。取材に協力してくれた高島、ジューテック、ジャパン建材、鈴与マタイの声を纏めると「太陽光や蓄電池など現状、大きな問題が起こっていない製品についても、中国製部品を全く採用していないとは思えず、いつ突発的に欠品が発生するかわからない」と予断を許さない状況である中、「訪販含めて商売を止める事は出来ない為、微量でも供給が出来るメーカーへ各社が移行している。各メーカーから供給を受けられるよう纏まった数量での注文を実施している。特にオール電化系は販売店でも在庫し易い製品になる為、纏めて受注することで対応している。モノ不足は3月~4月にかけて本格化してくると想定している」など迅速に対応しているところだ。
 しかし、その最中にも「特定メーカーを除くエコキュートのほか、IHなど納期遅延に関するアナウンスを順次、受けている」とモノ不足がますます深刻化していることを指摘。事実、『(品目) コロナウイルス 納期』とネット検索するだけでも、数多の販売事業者の遅延に関するリリースにヒットする状況にある。このような背景から、今後は「代替商品選定とメーカーとの協議を重ね、正確な情報を迅速に工務店に届けることを重視していく」など打つ手が無くなっている状況となってきた。イシンホールディングスでは「商流の検討が必要」とするほか、パナソニックホームズも「中国以外の生産国(国内含む)へのシフトを検討」などサプライチェーンの見直しを視野に入れるなど、対応策を模索している。
 全国的な臨時休校やテレワークの実施など異例の事態を齎している新型コロナウイルス。経産省は慢性化するマスク不足を受け、マスク生産に対する補助事業を緊急的に実施、これにシャープが参画するなど、国を挙げた対策措置が取られている。今夏に控える東京オリンピックの開催中止も危ぶまれるほど、緊迫した状態が続いている。(3月6日時点)

※本記事は次代住宅専門誌 『月刊スマートハウス』 No.62に掲載したものより抜粋しています。