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【特集】最新とりまとめで明らかに!次世代ZEHは自家消費モデルが標準へ

【特集】最新とりまとめで明らかに!次世代ZEHは自家消費モデルが標準へ

 昨年6月より令和元年度ZEHロードマップフォローアップ委員会が開催され、3度の議論を経て最新版が纏まった。普及状況や政策動向を改めて確認するとともに快適・健康、レジリエンスといった便益についての訴求を強めていく方針が明らかとなったほか、自家消費モデルの推進、地域の実情を考慮した基準の緩和などが一部行われた。最新補助事業の内容から今後のZEH動向を読み解く。

ZEH普及本格化、6年目に突入

 ZEH普及の本格的な議論は6年目に突入した。ZEHロードマップ委員会は「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現」とする政策目標達成に向け15年4月に設置され、具体的なロードマップや統一的な定義を公表。17年7月に後継となる『ZEHロードマップフォローアップ委員会』に改組。定義の見直し・追加など継続的に標準化と次世代に向けた方針を議論してきた。次なる方向性について昨年6・9・11月に行われた3回の委員会ではZEH普及に係る課題と対応がテーマとして設定され、今後のあり方について話し合われた。
 現状認識として18年度時点で約5.4万戸と毎年1万戸程度の増加が見られるものの実績と目標には乖離が生じていることから委員会では「売電収益を重視した太陽光発電の普及が徐々に困難となっている」「地域によっては積雪等の理由から必要な太陽光発電の導入が困難な場合がある」「設計・営業担当者が不足している」「要件を満たしていても省エネ計算が行われていないため評価されていない」といった要因が指摘された。太陽光発電に関しては一般消費者の追加費用負担が大きいと同時に事業者側のリスク懸念が存在する等と分析している。これら課題を踏まえた上で今回は以下3つの観点を検討し方向性が示された。

①地域の事情を考慮

 垂直積雪量が100㎝ある多雪地域では新築注文戸建住宅の着工戸数に対するZEH比率が全国平均を下回っている。その要因として一般的な屋根と比べ太陽光発電は滑りやすく落雪被害が懸念され、積雪荷重に耐えうる製品が限定されている。この他、年間日射量が少ない地域では投資回収できる見込みが薄いという費用対効果に係る課題もある。そこで安全性や地域の事情を考慮し多雪地域についても太陽光の設置を必要要件としないZEH Orientedを適用することを提起した。ただし、実際には同地域であってもZEHやZEH+の建築事例があり不可能な状況ではないことから、実現可能な場合は推進を引き続き求めた。

②便益の明確・定量化及び訴求

 ZEHロードマップにおいては「広報・ブランド化」として「便益の明確・定量化」及び消費者への訴求が重要となる。具体的な要素としてはエネルギー削減に係るエナジー・ベネフィット(EB)と「健康・快適性」「レジリエンス」といったノン・エナジー・ベネフィット(NEB)に分けられるが今回の委員会では後者に着目した。「健康・快適性」については医学的知見を踏まえたエビデンスが必要とし、国土交通省等が実施している断熱改修前後における居住者への影響調査、データ収集や分析が不十分な子供や子育て世帯を対象とした検証データの集約を含め効果的な訴求方法のあり方を検討していくとする。一方の「レジリエンス」に関しては頻発化する自然災害の影響を受け消費者の認知は高まってきているが、具体的にどのような要素技術(自立・分散型エネルギー設備:太陽光発電設備、蓄電池、燃料電池、設備配置計画等)が防災・減災に貢献するのかを整理していく必要性があることを指摘した。

③再エネ等を活用したZEHの今後のあり方

 太陽光発電設備のコストダウンに伴い、FIT制度の買取価格が低下している。買取単価が家庭用電力料金を上回る場合は売電を行う方が経済的メリットは大きい。一方で、その逆は住宅内で自家消費を増やすことが合理的な選択肢の一つとなる。これまでは売電収益を重視したモデルが主であったが国民負担増加の観点や経済産業省「再エネ大量導入・次世代ネットワーク小委員会」の議論も踏まえ「戸建・集合・コミュニティ」という3区分の自家消費モデルに関する方向性を示した。
 「戸建住宅」においては、太陽光発電の余剰電力を蓄電システムや電気自動車に充電する「蓄電」、高効率給湯機の昼間沸き上げによる「蓄熱」といった「蓄エネ技術」を組み合わせることで自家消費率を高める。加えて太陽光による電力供給が見込めない夜間・悪天候などにおいては燃料電池や太陽熱などの活用が提起された。
 「集合住宅」は戸建同様の技術要素に加え複数住戸間の電力融通(一括受電契約による余剰電力の最適制御や住戸間融通)、「コミュニティ」に関してはさらに送電技術や蓄電、共用設備を活用した電力融通を事例として挙げた。例えば、屋外コンセント等を活用することで平時は電気自動車の充電設備として、非常時は災害時対応としての活用が想定されるといった具合である。ただし、これらの要素は経済合理性や実現可能性の検証が必要と言及している。これらは補助事業においてZEH+Rや次世代ZEH+として反映されている。

 今回議論の中心は上記3点であったが、まとめにかえて消費者目線での便益の最大化、 意匠性とZEHの共存、消費者自らがZEHを選択する環境整備が必要となる。今後も引き続き各省庁や学協会・業界団体の連携、深化が求められると締めくくった。ZEH普及・標準化への議論はまだまだ続きそうだ。

※次代住宅専門誌『月刊スマートハウス』No.63号より抜粋